『うちの子、あんまり水を飲まないんだけど、大丈夫かしら?』
猫の健康維持には、十分な水分補給が欠かせません。とはいえ、猫は元々乾燥地帯に生息していた動物なので、水分摂取が少なくても生きていけるように腎臓が発達しています。
猫と同じ仲間であるライオンがアフリカのサバンナにいるのを想像してもらったら、わかりやすいかもしれませんね。
一方で、その性質のせいか積極的に水分をとろうという意識がないため、水分不足による健康トラブルが起こりやすいのです。
そこで、今回は猫の水分補給の重要性や、水分摂取の方法について詳しく解説します。
《水分補給の重要性》

猫の体内は約60%が水分で構成されており、水分はさまざまな生理機能に不可欠です。
【猫の体内での水分の役割】
・体温調節
・老廃物の排泄
・消化吸収
・栄養素の運搬
・関節の潤滑
水は猫の体内で循環機能や排泄機能などの大切な役割を担っているため、水分不足に陥ると健康に関わる様々なトラブルが起こりやすいのです。
水分摂取量の不足によって引き起こされる可能性のあるトラブルには次のようなものがあります。
〈脱水症状〉
水分不足による最も深刻な症状は、脱水症状です。脱水症状になると全身の水分量が不足し、以下のような症状が現れます。
・元気がない
・食欲がない
・震え
・発熱
・呼吸困難
・尿量減少
・血圧低下
脱水症状が重度になると、意識障害や失神、さらには死に至ることもあります。
人間の場合はそうなる前に「喉が渇いた」と訴えますが、猫は言葉で自分がどういう状態で、何が原因なのか伝えることができません。
脱水症状に早めに気づいてあげること、気づいたら迅速かつ適切な行動をとることはもちろん大切ですが、ここまで緊急性のある事態にならないよう日頃から水分摂取量の管理をしてあげることがもっとも大切です。
〈尿路結石〉
尿路結石とは、尿中に含まれるミネラルや塩類が結晶化してできた石のことです。
水分をしっかりとり、十分な尿量が確保できていれば、尿中の成分が尿路の中で滞ることがないため結石ができることはありません。
稀に小さな結石ができたとしても、尿に洗い流されて尿路が詰まることもないので、痛みも生じません。
尿路結石があると、排尿時に激しい痛みや血尿などの症状が現れます。
尿路を塞いで尿が出なくなるケースも。
尿路結石といえば、人間の場合でも三大疼痛に名を連ねます。
とても痛い思いをさせることになってしまいますので、ぜひ水分量・尿量のチェックは欠かさないようにしてくださいね。
なお、詰まるのが結石でなく細菌の場合は腎盂腎炎となり早期に抗生物質の投与を行う必要があります。
いずれにしても日頃の十分な水分摂取で予防できますのでしっかり対策を行いましょう。
〈便秘〉
水分が不足すると、便が固くなって排泄しにくくなるため、便秘になりやすいです。
便秘になると、お腹の張りや不快感、食欲不振などの症状が現れます。
腸内環境の悪化や、肛門周囲の炎症を引き起こすことも。
脱水症状や結石ほど緊急性はないものの、頻度が高く慢性的に悩まされる症状です。
《水分摂取の方法》

猫に必要な水分は、1日に体重1kgあたり30〜50ml程度と言われています。
成猫の平均的な体重からして、1日150mlくらいは摂取しなければなりません。
これくらいの水分量だと、食事からの摂取で十分足りている場合もあるので、まずは猫ちゃんの水分摂取量を把握しましょう。
人間と違って猫は『暑くて喉が渇いたから水を飲もう』という感覚にはなりません。
『暑いから水を置いておけば飲むだろう』という人間目線の感覚で放っておくのは危険です。
まして寒い冬など喉が渇かないものだから、もっと飲みません。
猫は汗をかきにくいと言われているため夏でも冬でも必要な水分量は大きく変わりませんが、水分補給に対する意識が季節によって大きく異なる可能性があるため、季節や気候による変化にも気を配っておきましょう。
主な猫の水分摂取源には以下のようなものがあります。
〈水道水〉
水道水は、基本的に猫に与えても問題ありません。ただし、水道水のカルキや塩素が気になる場合は、ミネラルウォーターを与えてもよいでしょう。
〈ミネラルウォーター〉
ミネラルウォーターは、水道水よりもミネラル分が豊富に含まれています。ただし、ミネラル分が過剰になると、健康に悪影響を及ぼす可能性があるので注意が必要です。
〈ウェットフード〉
ウェットフードは、水分量が多いので、猫の水分補給に効果的です。ただし、ウェットフードだけを与えていると、偏食や歯垢の原因になる可能性があるので、ドライフードと併用するのがおすすめです。
〈ゼリーやスープ〉
ゼリーやスープは、猫の食欲がないときや、水分不足を補いたいときに与えるのに適しています。ただし、カロリーや脂質が高いものもあるので、与えすぎに注意しましょう。
〈飲水量の計算方法〉
まずは食事からの水分摂取量を計算しましょう。もしかしたら、水をあまり飲もうとしないのは食事だけで十分な水分がとれているからかもしれません。
例えば、1日に50gのウエットフード食べているのであれば、そのうち80%、つまり40mlくらいの水分を食事から摂取しています。それだけで水分が足りているならそれで良し、しかし5kgの成猫なら最低でもあと110mlくらいは必要なので110mlの水をお皿に入れて置いてみましょう。もし1日でその水がなくならないようなら、水分摂取が足りていない、ということになります。
《あまり水を飲まない時の対処法》

さて、水分不足が明らかになった猫ちゃんにはしっかり水分をとってほしいところですが、水や食べ物から水分をとらせようとしても、思うように飲んでくれない猫ちゃんもいます。
人間と違って、水分を飲まないとどんなデメリットがあるかを言って聞かせるわけにはいきませんので、水分の取らせ方に更なる工夫が必要です。
猫があまり水を飲まない場合は、以下の方法を試してみましょう。
・水飲み場の位置や高さを工夫する
・水飲み場の容器を洗浄する
・水の温度を好みに合わせて調整する
・魚や肉の煮汁など、猫が好みそうなフレーバーをつける
猫は蛇口からぽたぽたと落ちる水を気がついたら飲んでいることがあります。
飲めとばかりに皿に入れて与えられたものはあまり好んで飲まないのかもしれませんね。
ただし、病気が原因で水を飲まない場合もあるので、気になる場合は動物病院を受診しましょう。
《まとめ》
猫の水分補給は、健康維持に欠かせません。
尿路結石や脱水症状になると大切な愛猫にとてもつらい思いをさせることになります。
日頃からの水分摂取量の管理が大切です。
猫の水分摂取量の管理においては、『猫の水分摂取に対する意識が人間と極端に異なる』ということをしっかり認識しておきましょう。
食事はドライフードをメインで与えている飼い主さんが多いかと思いますが、水分もしっかり取らせるため、最近は『ミックスフーディング』という言葉も流行っているようです。
これはドライフードとウェットフードを混ぜるのではなく、朝は総合栄養食であるドライフードで栄養をしっかり、夜はウェットフードで水分を補給、という形をとることを言います。
もちろん逆でも構いません。愛猫がなかなか水を飲んでくれなくて困っている飼い主さんは、ぜひこのような食生活も取り入れてみてくださいね。
まずは日頃の水分摂取量とその変化をしっかり把握し、その上で猫ちゃんがストレスなく十分な水分摂取ができる工夫をするようにしましょう。